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【赤】カフェオレ・ライター  この記事を含むはてなブックマーク

カフェオレ・ライター



「脱童貞ファンタジー」

高校時代、S君という友人がいた。




文字だけだと雰囲気が伝わらないので似顔絵を描いてみたのだが、






我ながらよく似ている。

なんというかこう、負のオーラを背負った男だったのだ。


S君はいまいち冴えない男で、特に勉強や部活に精を出すわけでもなく、何となく僕らのグループにいて、 何となくバカ話に参加しながら毎日を過ごしていた。

そのS君から、ある日召集がかかった。

S君が自ら僕らを呼び出すなんてめったにないことだ。いったいどうしたのか。

不審に思って理由を尋ねてみると、なんとS君、童貞を捨てたのだと言う。

「そんなバカな!」

僕らは驚愕した。

ここを読んでいるピュアな女子たちには理解されないかもしれないが、中高生ぐらいの男子にとって童貞を捨てるというイベントはとてつもなく重大な案件なのだ。

当時の友人連中で、童貞を卒業済みなやつはいなかった。僕らは悶々としながらザ・ベストを回し読みするだけの日々を送っていた。童貞を捨てることにもっとも情熱を燃やしていたT君は、脱童貞後の世界のことを「アリアハン」と呼んでいた。さっぱり意味はわからなかったが、とにかくそれほどまでに脱童貞というステータスには価値があったのだ。

そこへきて、S君の脱童貞宣言である。

本当なら大事件だ。

召集がかかってからすぐにファミレスに集まった僕らは、S君を見てびっくりした。



なんか違う……!

そこにいたのはS君ではなかった。いや、風貌はいつものS君とまったく変わらないのだが、オーラというか、全身から漂ってくる覇気の量が普段とはまったく異なっていた。ワンピースで言うならギアセカンドだ。気のせいか、なんかちょっと瞳孔もでかくなっているように思えた。そういえば、こないだ幸運を呼ぶ壺を熱心に薦めてきたオバハンが同じような目をしてたわ。

それにしても、人は童貞を捨てるだけでこんなにも変わるのか。

「……話……聞かせろや……」

僕と同じようにショックを受けたのだろう。友人のT君が押し殺すような声で呟いた。S君は「いいよ」と軽やかな声で答えると、椅子に腰を下ろした。そこは入口から見ると奥側、つまり上座だった。そんな大人のマナーはまだ何一つ知らなかった僕らだけど、もし知っていたとしても自然に上座をS君に譲っていたと思う。

それからS君は脱童貞の経緯を説明し始めた。

何でも、バイト先の女の人がお相手らしい。S君は当時、焼肉屋でバイトしていて、「かわいい人がいる」という話は僕らも何度か聞かされたことがあった。「その人なの?」と聞くと、S君は渋い顔をした。どうやら違うらしい。でも確かバイト先の焼肉屋にいるのは、かわいいお姉さんと、そのお姉さんに干支2周分ほど年齢を足したオバハンだけだったはずなんだけど。

そのへんについてもっと深くつっこもうかと思ったのだけど、S君が怖い顔で睨んでくるのでやめておいた。人には墓場まで持っていかなくちゃいけない秘密ってもんがあるんだ。と、幼いころ親父に言われたことを思い出した。

気を取り直して、初Hの話を聞くことにした。

何しろ、古い言い方をするなら「ABC」の「A」も経験していないような連中の集まりである。アダルティなビデオでしか見たことのない「C」を実際に体験した友人が目の前にいるのだから、その話を聞きたくなるのは当然の流れだ。

S君はニヤニヤしながら、「気持ちよかった」とか「俺はテクニシャンだ」などと熱く語り始め、僕らはグランドラインから生きて帰った海賊の話を聞く子供のごとく心を躍らせながら話に聞き入っていた。

話の途中で、T君がたまりかねたように口を開いた。



「な、なあ。……おっぱいって……やっぱ柔らかいんか?」



恐ろしく頭の悪いセリフである。しかし、アダルティなビデオで見るだけで実物の感触を知らない童貞としてはめちゃくちゃ気になる質問でもある。正直T君が言い出さなければ、僕が聞いていたかもしれない。


このときのS君の答えを、僕は一生忘れないだろう。





「乳首がちょっとへこんでたよ」



「おっぱいは柔らかいのか?」という質問に対しての返事が「乳首がちょっとへこんでいた」である。まったく話がかみ合っていない。かみ合っていないどころか、S君が何を言っているのか大人になった今でもわからない。へこんだ乳首。ザ・ファンタジー。

しかし僕らは幼かった。目の前にいるのはただのS君ではない。脱童貞というセレモニーを終えたばかりの、言うなればスーパーS君である。何をどう言い訳したところで、S君が僕らよりも先に大人の階段を上ったという事実は変えようがない。「英雄」。その言葉がS君には似合っていた。英雄の言うことは絶対だ。ナポレオンが言うなら乳首はへこんでいるのだ。そう、真実はいつもひとつ! 乳首はいつも二つ!

「そ、そうか……へこんでるんか……」

T君はゴクリと喉を鳴らしながらうなずいた。

そして次の質問をS君にぶつけた。



「そ、それでさ……アソコって……どんな匂いがするん?」



世の中には様々な悩みを抱え、それでも耐え忍びながら今日を生きている人々がいる。そんな彼らに土下座して詫びたくなるほどどうでもいい質問だった。だがしかし、そのときの僕らには世界平和よりもアソコの匂いを知ることの方が重大な問題だったのだ。

S君はちょっと考えて、そしてTVのコントでしか見ないような肩をすくめるしぐさで答えた。


このときのS君の答えを、僕は一生忘れないだろう。





「うちの姉ちゃんのパンツと同じ匂いかな」



「うおおおお!」と僕らは歓声を上げた。なんかよくわからないが、とにかくそれはすごい答えであるように思えた。だってそうだろう。当時の僕らからすれば、そこはリッツカールトンのスイートに匹敵する秘境だったのだ。その匂いがどんなものだったのかが判明したのだから、興奮するなという方が無理な話だ。

ぶっちゃけS君の姉ちゃんのパンツがどんな匂いなのかなんてS君以外誰も知らなかったし、よく考えるとそもそもなぜS君が姉のパンツの匂いを知っているのか、というあまり考えたくない疑問が浮かびあがってくるわけだが、そのときは感動のあまり誰もそこらへんにつっこもうとはしなかった。ただただ、S君の一言一句に対して壊れたロボットのようにうなずくことしかできなかった。



そんなこんなで一通り話を聞き終えた後、T君が話を聞けた嬉しさ半分、先を越された悔しさ半分といった口調で、「でもいいよなーこれから先もHしまくりやな!」と言った。

すると、S君の顔が急に曇った。


このときのS君の言葉を、僕は一生忘れないだろう。







「あのさ…なんか…チンコがかゆいんだよね…」
















おめでとう! S君!
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